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Hori’s Japan Blue はニューヨークのクイーンズの住宅地にある小さな藍染め工房です。日本では徳島産のたで藍の葉を発酵させた「すくも」が、天然藍染めの原料として使われていますが、生産量が限られていてアメリカでは入手困難な上、送料を含めるととても高価なため、この工房では Indigofera Tinctonia という植物から抽出されたインド産の天然藍を原料にしています。

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Nature


藍の青はジーンズの青として広く知られています。その色合いとデニムの質感は世界中で愛され、今やファッションの定番になっています。青という色は人類にとって何か特別なのかも知れません。 青い空 、、、 青い海 、、、


数年前、ここアメリカで天然藍の藍染めを始めようと思った時、私はそれと一緒に苛性ソーダやハイドロサルファイトなどの強力な化学薬品を使用することに何の疑いを持ってはいませんでした。これらの薬品は、藍染めのもっとも大事なプロセスの一つで、不溶性の藍を水溶性に変えるための還元作用を、すばやく簡単にそして安価に行うことが出来ます。

 

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しかし私は大きな問題に直面しました。この還元作用を促す化学反応の過程で排出される臭いの強烈なガスが、私のぜんそくを悪化させてしまったのです。そして後になってこの薬品の取り扱い説明書の中に、もし呼吸器系に問題がある場合は防毒マスクの着用をすすめる、という注意書きを見つけました。


そしてこの出来事のために私は、もっと複雑でむずかしく時間もかかる、全部自然の材料を使う伝統的な藍染めの手法を用いざるを得なくなったのです。薬品を使うと1時間で藍は染められる状態になりますが、自然材料だと少なくとも1週間から10日位かかります。その上とても割高になります。

 

この方法は、バクテリアを使った自然発酵による酵素が藍の還元を可能にしてそれを水溶性の物質に変えます。酵素やバクテリアによる自然発酵は、ビール、ワイン、チーズ、ヨーグルト、パン、酒、味噌、醤油、納豆などを作るのに利用されているのは言うまでもありません。

 

このバクテリアを活性化し続けるのに、藍がめの温度とpHを毎日最適に保たなくてはなりません。それと、彼らの日々の食べ物も忘れてはなりません。

 

そして、2、3年の試行錯誤を経て何とか藍がめを染色用に安定させる事が出来るようになりました。この自然発酵法は、その発酵に特有の有機的なニオイ、特にアンモニア系のニオイがかなり強いにも関わらず、私のぜんそくには何の問題もなく、そういう安心感は心をも健康にしてくれます。

 

アパレル業界は、19世紀にドイツの化学者アドルフ·ベイヤーによって開発された合成藍を含めた様々な化学染料を使って、服地や布を染色しています。今では、ジーンズのほとんど全てが、その手軽さとコストの安さで、合成藍で染められています。

 

けれど、強い薬品を使った私の経験は、より早くより簡単にというのが、たった一つの方法ではなく、また、必ずしもそうすべきだという訳ではないという事、そして、心身は自然と親和性があって、それは私たちみんながその一部なのだからという、最も当たり前の事を私に気付かせてくれました。

Hand

 

15年以上も前、私が成田からニューヨーク行きの飛行機に乗ったのは、他の多くの若者と同じように、アーティストを夢見ていたからでした。その時のスーツケースの中には、絵の具やスケッチブックの他に、金づち、のこぎり、ペンチ、巻尺なども混じっていました。

 

幼年時代、青年時代、いつも何かを作っていました。木のボート、ダンボールと銀紙製の月の風景、プラスティクモデル、Uコン、本棚、タンス、ギター(!)、真空管ラジオ、ギターのアンプ、セメント製の池、等々。

 

そういう訳で、自分で何かを作るためにこういう道具類は、言わば延長された手として、いつもそばになければならなかったのです。

 

アーティストになることを諦めた今も、私はここニューヨークで手を動かし続けています。古くなった襟付きの長袖のシャツの縫い目を全部ほどいて型紙をおこし、それをもとにして、いくつもの新しいシャツを作ったりもしました。

 

ずっと昔何かを作っているときに感じたかすかな興奮を、今も藍染めをしている時に感じます。時間を忘れて何かに熱中していると「マサユキ、ごはん!」といつも母は叫んでいました。今それは妻の役目です。

Color

 

藍染めを始めて、私は身のまわりの色を注意深く観察するようになりました。すぐに、街角のグロッサリーストアの店頭に並ぶ花束が、ユニオンスクウェアー公園のファーマーズマーケットの花の色に比べて不自然に鮮やかなのに気付きました。そして今私たちが着ている洋服の色のほとんどが、100年前には存在していなかったという事にも気が付きました。(たった100年です!)

 

天然藍の青は、草木染や他の自然染色の中でもとても古い歴史を持っていて、その青は一見他の化学染料の青のようにとても鮮やかとは言えないように見えます。

 

けれどこの世界最古の染料の一つである藍は、染められる素材や染める濃さ等により、様々な色合いと陰影を現します。それと何回か洗っている内に不純物も洗い落とされて鮮やかになって行きます。

 

コンピューターのモニターを通した藍の色は、フォトショップなどの画像編集ソフトなどで色の補正をしても、モニター自体が発光しているので、どうしても実物より鮮やかになってしまいます。

Beauty

 

藍染めは様々な技法で模様を染め出す事ができますが、私はその中で、最もシンプルで原始的な絞り染めに魅せられました。この藍の絞り染めは、400年程前に急速に技術的に発展し、日本中に拡がりました。100種以上の絞り技法が今でも受け継がれています。

 

絞りの原理はとても簡単で、ヒモなどで縛られた所が白く残り、そうでない所が青く染め上がります。

 

いったん布が縛られたら、染め終わってヒモが解かれるまで、どんな模様が現れるのかは分かりません。

 

ヒモをほどいて、こうなって欲しいという自分の願望と自然の偶然性の見事なハーモニーによる予想もしなかった模様が目の前に現れる瞬間は、本当に何も言葉になりません。

 

今私は、この時代のよりシンプルな藍の絞り染めに熱中しています。複雑さよりは単純さ、必然性より偶然性、そして完全性より不完全性、それが私にとっての美しさです。